Share

第93話 打ち合わせ

last update Last Updated: 2025-05-20 07:57:45

 家では賓客であるディアドラをもてなすため、全員がワタワタした。

「なに、一般家庭であることは承知の上じゃ。楽にせよ」

 と彼女は言うが、小国とはいえ国家元首である。楽にはできんだろ。

 ディアドラはそんな俺たちはそっちのけで、倉庫にあったレア魔法書に目を輝かせていた。

「あれも、これも、おお、それも欲しい!」

 というわけで、倉庫の肥やしになっていたレア魔法書をほとんどお買い上げだ。

 私費の他、魔法ギルドで研究するために公費も使っているらしい。

 秘書官が一生懸命目録と請求書を作っていた。

 まあ、開拓村の資金はあればあるほど助かるからな。ありがたく売りつけてみた。

 ディアドラの魔法書お買い上げで数日時間を取られたが、その後はすぐに北へ出発した。

 俺の他にクマ吾郎を連れてきた。

 戦力という意味では俺とマナフォースの護衛で十分だが、万が一のことがあっては困る。

 世界最強の熊がいれば、滅多なことは起こらない。

 旅は順調に進む。

 森を抜けて北の平原に出たときは、ディアドラが感嘆の声を上げていた。

「広いのう! それに想像よりもずっと豊かな土をしている」

「そうでしょう。今は夏とはいえ、気温もそれなりに高い。農業は十分可能ですよ」

 俺が答えれば彼女はうなずいた。

 雪の民と再会を約束した時期はもう少しだけ先だったが、現地まで行ってみると彼らは待っていてくれた。

「ユウ様! クマ吾郎も!」

 俺たちに気づいたエミルが走り寄ってくる。

 ほんの二ヶ月にも満たない期間なのに、背が少し伸びて表情も大人っぽくなった気がするな。

 俺は抱きとめようと手を広げた。

 だがエミルは俺の横を走りすぎて、クマ吾郎に抱きついた。……いいけどさあ……。

「ユウよ、よく来た。……そちらの方は?」

 イーヴァルの視線を受けてディアドラが進み出た。

「私はディアドラ。ここから南東にある魔

Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第94話 打ち合わせ

    「そうさな。多少の理由付けは必要じゃ。だがお前はすでに十分、雪の民との縁があるだろう」「エミルのことですか」「うむ。奴隷だったことは伏せて、雪の民の長の身内を助けたおかげで、彼らと縁ができた。その縁によって新天地を求めた……という程度でよかろう」 割とふわっとしているな。そんなのでいいのか。 ……いや、雪の民の長であるイーヴァルの孫を探し出して、家族のもとに届けたのだ。長年行方不明になっていた娘――エミルの母――のその後の事情といっしょに届けたのだ。「そんなの」ということはない。 これからパルティア王国と対等な交渉をするのだ。 俺は長、いわば王族の恩人になる。移住の理由に足るだろう。 奴隷だったのを伏せるのは、奴隷商人やエミルの母親の買い主がごねるのを防ぐためだ。 今さら所有権を主張されても面倒だからな。「エミルを連れてきてくれたのは事実。なにも嘘は言っておらぬ」 と、イーヴァル。「ディアドラ殿の助言に従おう。もとよりエミルが奴隷だったなど、わしには認められぬ話だ」「エミルの奴隷契約と書類はどうなっておる?」 ディアドラに聞かれて俺は答えた。「奴隷契約は破棄して解放しました。書類はそういえば、まだ役所に出していません」 奴隷を解放したら役所に書類を出す決まりである。 でもエミルが奴隷だったのは伏せるわけだし、どうしたらいいのか?「では、書類上は死亡したということにしておけ」 ディアドラが言う。「埋葬したと言えば確かめようもない。子供一人、そこまで気にされんじゃろう」 胸くそ悪いが間違っていない。 イーヴァルもやや渋い顔でうなずいた。 交渉の方針がまとまったので、俺たちは家に戻ることにした。「ユウ様、もう帰っちゃうの?」 テントから出るとエ

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第93話 打ち合わせ

     家では賓客であるディアドラをもてなすため、全員がワタワタした。「なに、一般家庭であることは承知の上じゃ。楽にせよ」 と彼女は言うが、小国とはいえ国家元首である。楽にはできんだろ。 ディアドラはそんな俺たちはそっちのけで、倉庫にあったレア魔法書に目を輝かせていた。「あれも、これも、おお、それも欲しい!」 というわけで、倉庫の肥やしになっていたレア魔法書をほとんどお買い上げだ。 私費の他、魔法ギルドで研究するために公費も使っているらしい。 秘書官が一生懸命目録と請求書を作っていた。 まあ、開拓村の資金はあればあるほど助かるからな。ありがたく売りつけてみた。 ディアドラの魔法書お買い上げで数日時間を取られたが、その後はすぐに北へ出発した。 俺の他にクマ吾郎を連れてきた。 戦力という意味では俺とマナフォースの護衛で十分だが、万が一のことがあっては困る。 世界最強の熊がいれば、滅多なことは起こらない。 旅は順調に進む。 森を抜けて北の平原に出たときは、ディアドラが感嘆の声を上げていた。「広いのう! それに想像よりもずっと豊かな土をしている」「そうでしょう。今は夏とはいえ、気温もそれなりに高い。農業は十分可能ですよ」 俺が答えれば彼女はうなずいた。 雪の民と再会を約束した時期はもう少しだけ先だったが、現地まで行ってみると彼らは待っていてくれた。「ユウ様! クマ吾郎も!」 俺たちに気づいたエミルが走り寄ってくる。 ほんの二ヶ月にも満たない期間なのに、背が少し伸びて表情も大人っぽくなった気がするな。 俺は抱きとめようと手を広げた。 だがエミルは俺の横を走りすぎて、クマ吾郎に抱きついた。……いいけどさあ……。「ユウよ、よく来た。……そちらの方は?」 イーヴァルの視線を受けてディアドラが進み出た。「私はディアドラ。ここから南東にある魔

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第92話 まるごと奴隷

    「そうだよ! あたしは昔、生きるために娘を売った。でも奴隷商人は約束の半分のお金しかくれなかった。おかげで家族はばらばらになって、こんな場所で難民をしている」 年配の女性も叫んだ。「だけど、ここにいたって暮らしていけないわ!」 若い女性が言い返す。「それならこの人についていきたい。本当に土地がもらえるなら、また農業で暮らしたい」 難民たちの意見が割れた。将来の希望を夢見る人と、絶望してしまっている人がいる。 彼らはそれぞれ迷っているようで、意見はまとまらない。 しばらく様子を見た後、俺は大声を張り上げる。「心は決まったか? まあ、今すぐ決めろとは言わない。数日後に改めて聞きに来る。そのときまでに決めておいてくれ」「と、いうことだ」 バルトが俺の話を引き継いだ。「よく考えるんだね。ただ、お前たちは選択肢を与えられた。それを忘れるな。今までの人生で自分の意志で選ぶなど、どれだけあったか思い出すといい。奴隷ごときに選択の機会を与える彼が、どういう人物なのかと、ね」「バルト、そんなもったいぶった言い方するなよ」 背中がかゆくなる。 小声で言ってやると、彼はニヤリと笑った。「このくらい言っておかないと、あいつらには通じないよ。貧すれば鈍する。毎日食うのでカツカツだと、ろくに物事が考えられなくなるから」「それは分かる……」 十五歳で冒険者を始めたばかりの頃、俺もそうだった。 毎日生きるのに必死で先のことなど考えられなかった。 俺の場合はそれでも冒険者という職業があって、町の人の依頼と親切に支えられながら前に進めたが。 もう少し運が悪ければ野垂れ死んでいた。あるいは、奴隷商人に捕まって強制労働でもさせられていたかもな。「じゃあ、後は任せた」「はい」 盗賊ギルドお抱えの奴隷商人に後を頼んで、俺たちはマナフォースの町に戻った。

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第91話 まるごと奴隷

     魔法都市マナフォースには、到着から二週間ほど滞在した。 議会承認と手続きが終わるのを待っている間、俺とバルトは約束を果たすべく動いていた。 マナフォース内の難民をまとめて奴隷にする計画だ。……なんか、まるで悪人みたいな言い方になってしまったな。 それはともかく。 元首であるディアドラとマナフォース議会の許可のもと、衛兵たちの力を借りて難民を町の外に追い立てる。 逃げようとする者は強制的に捕まえた。老若男女、子供でも容赦なしだ。 ちょいと心が痛むが、難民たちはマナフォース住民に迷惑をかけ続ける存在でもある。それに何より、このままここに居座ったっていいことは何もない。手心は加えるべきじゃないだろう。 町の外に追い出した難民は、奴隷商人が片っ端から捕まえて手かせをつけていった。 数は百人以上はいるな。あちこちから悲鳴が上がっている。 胸くそ悪いがここで止めるわけにはいかない。「お前たちは許可なくパルティアから逃げ出し、マナフォースに不法入国をした。マナフォースにとっても、パルティアにとっても、お前たちは犯罪者だ。犯罪者が奴隷になったとて、文句はないよな?」 バルトが冷たい声で言う。 抗議の声は完全に黙殺されてしまった。 次は俺の番だ。「俺はユウ。今回、奴隷商人を手配してお前たちを買い付けた。俺は事情があって、人手をたくさん必要としている。だからお前たちを使う予定だ。ただし行き先が北の土地で、成功の保証はまだない。だからお前たちが選ぶといい。俺といっしょに北で開拓をするか、パルティア王国に残って奴隷として過ごすか」「北で開拓するだって? 無茶な!」 難民たちの間から声が上がる。「南の土地だって開拓村は潰れてばかりなんだ。北で開拓なんかしてみろ、全員寒さの中で飢え死にだろうが!」「そうだ、そうだ」「そんな自殺まがいのことに付き合っていられるか」 だいぶ評判が悪いな。ここで人手を確保できないと困る。 そこで俺はさらに言った。「勝算はある

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第90話 魔法都市国家マナフォース6

    「森の民は閉鎖的な民族だった。森に閉じこもって暮らし、諸国が言うような攻撃性などあるはずがない。だが、その閉鎖性と特殊性が仇となった。謎に包まれた民族として噂が噂を呼び、尾ひれがついていった」 ディアドラは言う。 森の瘴気とは非常に濃い魔力のこと。濃すぎるために森の民以外には毒となる。 彼らは独自の神を信仰していたが、別に邪神ではない。森を守護すると言われている神だった。「その神の……」 ディアドラは少し迷ってから続けた。「神の秘宝を狙って、アレス帝国は戦争を仕掛けた」「…………!」 俺は思わず彼女を見る。その話が本当なら、戦争の真実は一般に流布しているものと真逆になる。 ディアドラは続けた。「秘宝の名は『エーテルライト』。星の光が渦巻く宝玉と伝え聞いている」「それは、どのような秘宝なのですか」「我が父――森の民である彼によると、魔力を無尽蔵に溜めておけると。溜めるだけではなく放出や分配も可能ということじゃ」「かなりとんでもない効果ですね……」 魔法使いにとっては、魔法がいくらでも使えることになる。 それに放出。魔力の放出そのものが威力ある武器になるとしたら? アレス帝国が狙うのもうなずける。「アレス帝国が単独で攻め入らず、諸国同盟を組んだのは、森の民が手強い相手だったのが一つ。森の民はそこまで数が多くないが、一人ひとりが手練れの魔法使いで、しかも深い森に住んでおった。当時は今ほど強大ではなかったアレス帝国にとって、リスクが高かったのだろうな」 ディアドラはため息をついた。「そしてもう一つは、責任の分散。正直に言えば森の民を滅ぼすほどの大義名分は、存在しなかった。一国で戦争をすれば他国から責められる口実を与えかねん。そこで秘宝の存在をちらつかせ、諸国を煽ったのだろう」「秘宝は、エーテルライトはアレス帝国が奪ったのでしょうか」「不明じゃ。だが

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第89話 魔法都市国家マナフォース5

     一週間ほど経つと、手続きが完了したとの知らせを受けた。 協力関係の樹立を祝って、宿屋のホールでもてなしと歓迎のパーティが開かれるのだそうだ。 必要ないと断ったのだが、「我が国としてユウを支援するのじゃ。こういった催しは、対外的に必要なのでな」 と言われて受けることにした。まあ、これも仕事のうちだ。 マナフォースの議会員たちに挨拶をして顔をつなぐ。 パーティはさすがに正式な場で、いろいろと堅苦しい。 バルトは上手くやっているし、エリーゼも笑顔で対応しているが、俺はどうにも苦手だった。 一通りの役目を終える頃には、パーティもようやくお開きとなった。 場違いな態度を取り続けて疲れてしまったので、屋上で風に当たってこようと思った。 宿の屋上に出れば、よく晴れた夜空に星々が広がっている。 日本の星座とはもちろん違う星。 けれど天の川は一緒だった。 この世界にも宇宙があって、星雲が重なって見えるのだろうか。 そんなことを考える。「ユウよ」 背後から声をかけられた。聞き慣れた声だった。振り返ってみるとディアドラがいる。「ご苦労だったな。これで面倒な手続きは全て終わった。あとは雪の民と合流の上、パルティア王宮へ赴こう」「はい。無茶なお願いをきいていただいて、心から感謝しています」「なに。我らが動くに十分な利益を提供してもらったのだ。当然のことよ」 ディアドラは俺の横へ来て夜空を見上げた。「その若さで超一流の冒険者となり、さらには開拓村を計画する、か。――森の民のお前がのう」「…………」「あぁ、そう警戒しなくてよい。さすがに同胞は見れば分かる。森の民の魔力は独特だからな。もっとも私は半分だけの血だが」 彼女は自分の耳を指でつついて見せた。「純粋な森の民に会うのは、ずいぶんと久しぶりじゃ。二十年前の森の民殲滅戦争以来、彼らは数をひどく

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第88話 魔法都市国家マナフォース4

     マナフォースにいる難民は、ほとんどがパルティアから流入したもの。 パルティアは貧乏人に厳しい国だ。 開拓村は重税と魔物の害で立ち行かないケースが多くて、奴隷商人が横行している。エリーゼの村もそうだった。 それでパルティアで食い詰めた者は、新天地を求めて難民として国外へ流れていく。マナフォースは距離が近いので、流出先になっているのだ。おかげでマナフォースは迷惑している。 パルティアは一応難民を人口流出として取り締まっているが、他国に行ってしまった人らを連れ戻すまでの手間はかけない。むしろ「貧乏人は勝手に出ていけ、戻って来るな。あとはそっちの国で何とかしてくれ」くらいの態度である。 調べたところ、パルティア国内法では他国に入った難民はパルティア国籍を失うとのこと。パルティアが国として難民をどうこうするつもりのない意思表示だ。 というわけで、難民たちを奴隷にしてもパルティアが口出ししてくることはない。 唯一利がないのは奴隷にされる難民たちだけど……。 一応、開拓村で働くかパルティア王国内で奴隷をするか選ばせてやろうと思っている。 どうせこの国に難民として留まったところで、乞食をするか野垂れ死ぬかの二択だし。 なお、奴隷商人は盗賊ギルドが手配した。 奴隷商人は許可制の商売だが、人身売買の性質上、裏社会に顔が利く盗賊ギルドとつながりが深い。 まあこの辺はあまり詳しく話を聞きたくないから聞いていない。「ふうむ……」 ディアドラがため息をついている。 しばらく悩んだ様子の後、やがて顔を上げた。「よかろう。取引成立だ。この件は明日にでも臨時議会にかける。すぐに承認は得られるじゃろう」「ありがとうございます!」 俺たちは深々と頭を下げた。 ディアドラはゆったりとうなずいた。「宿を用意しよう。議会承認が出るまでせいぜい数日じゃ。それまでゆるりと休んでおくれ」「お心遣いに感謝します」「で、だ

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第87話 魔法都市国家マナフォース3

     ディアドラは表面上は柔らかく、しかし目の奥に警戒を潜ませながら続ける。「百年前とはいえ、有効な条約の再確認か。正当性では雪の民に分があるな。だがユウよ、そこまでする以上、開拓村の成功に自信があるのだな?」「ええ、もちろん。家には農業スキル持ちの優秀な奴隷がいますが、彼が北の土地での農業に見立てを立てました。雪の民の協力も見込めます。俺自身が一流の冒険者で、ダンジョン攻略で資金を稼ぐこともできます。重すぎる税金で根こそぎお金と作物を持っていかれる現状に比べれば、どれだけ希望があることか」 店を開けば難癖をつけられ、畑で作物を作っても半分取られる。それ以外の収入もガッツリ税金で持っていかれる。 で、うっかり税金滞納するとあっという間に犯罪者だ。あの国、おかしいだろ。「まあ、パルティアについてはわしもよく知っておる。隣国だからの。それもこのマナフォースよりもはるかに巨大な国じゃ」 ディアドラが俺を見つめながら言った。「パルティアは欲深い国。最近はだいぶ大人しくなったとはいえ、本質は変わっておらぬだろう。お前の開拓村が栄えれば栄えるほど、パルティアは欲しがるだろうなあ」「……はい。だからこそ、ディアドラ様の後押しで北の国境線と雪の民の土地を確保したいのです。せめて大義名分がなければ、攻め入って来られない程度の予防線が欲しいのです」「大義名分など、いくらでもでっちあげられるじゃろ。どの程度の予防になるやら」「ないよりはずっとマシです。それに北の国境線と雪の民の存在を広く諸国に知らしめれば、パルティアも手出ししにくくなる」 ディアドラは声を殺して笑った。「くくく、そりゃあそうじゃわ。下手な大義名分で攻め込めば、逆に他国からパルティア自身が攻められないとも限らん。なるほど、悪くない手だ」 彼女は笑い声を引っ込めると続けた。「で、我がマナフォースはどんな利がある? 確かにお前の手土産は魅力的じゃ。だがこれだけをもって、大国パルティアの機嫌をそこねてはかなわん。我が国はパルティアと接しているゆえ、常に相手の出方を伺っているのだ」

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第86話 魔法都市国家マナフォース2

    「手土産は他にも用意しました。こちらをどうぞ」 俺は自作の杖とバドじいさんの護符を取り出した。 ディアドラの目の色が変わる。「魔法銀の杖か! 宝石の魔力が高純度で付与されておる。だがこの文様はなんじゃ、見たこともない」「それは企業秘密ということで……」 あの謎の洞窟の話を口外すると、即座に白騎士ヴァリスにバレてしまう。追っ手が来て殺されるのはごめんだからな。「ふうむ。文様だけではない、非常に高い技術で魔力がめぐらされておるのう。ここまで高品質な杖は、このわしをして初めて見た」 え、そこまで? そりゃあ今の俺の持てる力を全て注ぎ込んだ杖だけど、魔法都市のトップが絶賛するほどのものだったとは。 俺がぽかんとしているのに気づいて、ディアドラは苦笑した。「おっと、ちと言葉足らずだったのう。もちろん国宝級や伝説級の杖は、もう一枚も二枚も上手じゃよ。けれども一介の職人が作ったもので、材料も特別なものではないとなれば、間違いなく最高ランクになる」「それでも過分なお言葉です」 俺は素直に言って頭を下げた。正当に評価した上で褒めてもらって、じんわりと胸が暖かくなる。「この護符も見事な出来じゃ。魔法書といい杖といい、ずいぶん気前のいい贈り物だのう」 ディアドラは笑顔のままだったが、瞳の奥に打算的な光が灯った。 ……交渉はこれからだ。 エリーゼやバルトと目配せして、俺は深呼吸をした。「実はディアドラ様に、お願いがあって参りました」「ふむ」 彼女がうなずいたので、俺は続ける。「俺は先日、北の土地へ旅した際に雪の民という人々と出会いました。彼らはパルティア王国の北の国境線の外側に暮らす人々です。驚いたことに、雪の民はパルティア王国と正式な不可侵条約を交わしていました。百年も前のものですが、俺の見た限りでは文書に不備もないようです」「ほう、聞いたこともない

Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status